コーヒー好きの皆さん、「ウェットハル」について聞いたことがありますか?
インドネシアは世界有数のコーヒー産地で、日本では特にマンデリンコーヒーが人気ですが、その背後には独特な精製方法が隠されています。ウェットハルはスマトラ式とも呼ばれ、インドネシアの湿潤な気候に適しており、独自の風味を生み出します。
私はインドネシアに暮らしておりスマトラ島で採れたコーヒーを毎日のように飲んていますが、ウェットハルについてはちゃんと理解できておらず...今回は、自分自身の調査の目的もあり、ウェットハルの記事を書きたいと思います。
ウェットハルがどのような精製方法で、コーヒーの味わいに影響を与えているのか見ていきましょう。
インドネシアのウェットハル:独特な風味を生み出す秘密
インドネシアのコーヒー産地として有名ですが、ウェットハルと呼ばれる特別な精製方法が採用されています。インドネシアの中でも、特にスマトラ島やスラウェシ島のコーヒー生産者によって用いられています。
インドネシアでは、Giling Basahと呼ばれます。現地の人がコーヒーの精製方法を知っているかは別として、発音はギリン・バサーのカタカナ発音で通じると思います。Gilingは「粉砕する・脱殻する」、Basahは「濡れた・湿った」といった意味ですが、この方法は、豆がまだ湿っている状態で脱殻するという特徴があります。ウェットハルは、インドネシア特有の気候条件に適しており、他の地域のコーヒーにはない独自の味わいを生み出します。
インドネシアでウェットハルが広まった歴史
オランダがインドネシアにコーヒー栽培を持ち込んでから、当初は他の地域と同様の精製方法が用いられていましたが、インドネシアの湿潤な気候ではカビなどが発生しやすく、この方法が必ずしも最適ではないことが次第に明らかになりました。
インドネシアのコーヒー栽培農家は、湿潤な気候に適した加工方法を模索する中で、ウェットハル加工法を開発しました。これが1990年代頃と言われています。この方法は、豆がまだ湿っている状態で脱殻することで、発酵やカビのリスクを低減し、迅速に乾燥させることができます。
ウェットハルは特にスマトラ島やスラウェシ島のような高湿度の地域で普及し、多くの小規模農家がウェットハルを採用しました。ウェットハルはインドネシアのコーヒーのアイデンティティを形成しただだけでなく、農家が迅速にコーヒーを市場に出すことを可能にし、収入の安定にも寄与しました。
ウェットハルのプロセス
それでは、具体的にウェットハルのプロセスを見ていきましょう。
チェリーの収穫
- コーヒーチェリーは、熟して赤くなった状態で手摘みされます。この手摘みによって、熟度が均一なチェリーが選ばれ、高品質のコーヒーが生産されます。
パルピング
- 収穫されたチェリーは、パルパーという機械で果肉(パルプ)が取り除かれます。この段階では、豆はまだ粘液(ミューシレージ)で覆われています。パルピングは、果肉を取り除くことで豆の発酵が進みやすくなり、独自の風味を形成する基盤を作ります。
発酵と粘液の除去
- パルプが除去された豆は、発酵タンクに入れられ、24時間ほど短時間発酵されます。この発酵プロセスは、豆の表面に残ったミューシレージを分解し、除去しやすくします。その後、水で洗浄されます。
部分乾燥
- 洗浄された豆は、通常、水分含有量が30-40%になるまで乾燥されます。この段階ではまだ豆は湿っており、完全に乾燥していない状態であり、ウェットハル特有の風味とテクスチャーを形成します。
-
- 豆がまだ湿っている状態で脱殻されます。これにより、外殻(パーチメント)が取り除かれ、緑がかった生豆が露出します。この湿った状態での脱殻は、豆に特有の風味と質感を与える重要なステップとなっています。
最終乾燥
- 脱殻された生豆はさらに乾燥され、水分含有量が12-13%になるまで乾燥されます。この最終乾燥により、豆が適切な保存と輸送に耐えられるようになります。
ウェットハルの影響
ウェットハルは、コーヒーの風味と質感に特有の影響を与えます。
風味
ウェットハルで加工されたコーヒーは、濃厚で重厚なボディを持ち、アーシーな風味やスパイシーな香りが特徴です。この風味は、発酵と湿った状態での脱殻によって生まれます。酸味は控えめで、滑らかな口当たりが感じられます。見た目
ウェットハルで加工された豆は、緑がかった色合いを持つことが多いです。豆の表面がやや粗くなることもあり、見た目からも特徴的な加工方法であることがわかります。
ウェットハルの利点と課題
利点
ウェットハル加工は、インドネシアの湿度の高い気候条件に適しており、迅速に加工を進めることができます。このため、収穫後すぐに加工が開始され、新鮮な状態でコーヒー豆が処理されます。
豆が湿っている状態で脱殻されるため、発酵やカビのリスクが低減されます。これにより、豆の品質が向上し、安定した風味が得られます。
課題
加工プロセスが複雑で、技術的なスキルが求められます。特に発酵と乾燥の管理が重要で品質に大きな影響を与えます。
他の加工方法に比べて、品質の安定性に課題が残ります。特に湿度が高い状態での脱殻は、適切な保存と管理が必要です。
ウェットハルの代表的なコーヒー
インドネシアのウェットハルで精製されたコーヒーには、いくつかの代表的なブランドがあります。以下はその一部です。
マンデリン
スマトラ島で生産されるマンデリンは、ウェットハル加工の典型例です。濃厚なボディと土っぽい風味が特徴で、世界中で愛されています。特にチョコレートやスパイスの風味が強く、豊かなアフターテイストが楽しめます。
マンデリンについては詳しい記事を別で書いているので、泡あせてぜひご覧ください。 livelog81.hatenablog.jpトラジャ
日本でも認知度が高いトラジャコーヒーはスラウェシ島で生産されており、ウェットハル加工によって独特の風味を持っています。ハーブやシナモンの香りがあり、複雑な味わいが特徴です。
ウェットハルを知ることで、インドネシアのコーヒーがより好きになった
ウェットハルはインドネシア特有の湿潤な気候に合わせて普及した精製方法ですが、インドネシア独自のコーヒーの味わいを形成する要因の一つになっています。
普段からスマトラのコーヒーはよく飲んでいるので、今回記事を執筆して精製方法までちゃんと理解できたことは良かったと思います。インドネシアのコーヒーに興味を持っている方にとっても、今回の記事が参考になれば幸いです。